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特集

21.10.04 

函数の部屋 Interview with 山井隆介+長谷川億名

©️Ryusuke Yamai

―お二人で作品制作をされたのは、今回が初めてだったのでしょうか?

山井隆介(以下「山井」):もともと長い友人なのですが、共同制作をするようになったのは今年から、今回が二回目です。一度目は都内のギャラリーで開かれたグループ展の時で、長谷川さんの制作した映像作品に自分がオブジェの制作で関わったのが初めてだったのですが、ここまで密にコンセプトワークから制作、さらに設営や仕上げまでを一緒に作り上げるのは、今回が初めてです。

長谷川億名(以下「長谷川」):初めて一緒に制作した時も、実はテーマが佐渡だったんです。その時は一緒に佐渡に行って制作したわけではないんですが、同じくらいの時期に別々に行っていて、なんか縁を感じて今回参加させてもらいました。

山井:ちょうど佐渡にまつわる作品を二人で制作している最中に芸術祭の公募が始まったこともあり、せっかくなら佐渡でも長谷川さんと一緒に作品を作りたいなと思い声を掛けたんです。

©️Ryusuke Yamai
©️Ryusuke Yamai

―作品についてお伺いしたいのですが、主に山井さんはドローイングや造形、長谷川さんは映像作品を中心に活動されていますが、今回はどのような作品になっているのですか?

長谷川:佐渡に内海府というエリアがあり、そこに虫崎という集落があるのですが、作品は虫崎の集落に住みながら作りました。虫崎に兵庫さんという大工さんがいるのですが、その方に宿を紹介していただいて、2週間くらい滞在しながら。

山井:ドローイングと映像、造形からなる作品なのですが、そのほとんどの過程を虫崎に滞在しながら制作していきました。

長谷川:虫崎はいわゆる「限界集落」で、今は20人弱の方が暮らしています。でも、お客さんでもリピーターになる人が多く、私たちの滞在中も、ダイバーの方が毎日潜りに来ていました。展示会場になっている廃校になった内海府小学校虫崎分校の体育館では、兵庫さん含め有志の方によって『100人盆踊り』が行われていて、島内だけでなく関東など様々な場所から参加者が来ています。
「死には実際の死と他者の記憶からの死の二つがあって、集落は無くなるかもしれないけれど、誰かの記憶に残っている間は死なない」というようなことを、兵庫さんが仰っていたんですけど、それって虫崎だけではなく、日本中、世界中どこでもそうだなと思い、それが今回の作品のコンセプトに繋がっていきました。

山井:今回、1万年先の存在という、時間的にも距離的にも遠く隔たれた存在に対して伝わる言語を探求することが主題になっているのですが、そこには佐渡の歴史にもインスパイアされた部分があります。
佐渡は、よい記憶と悪い記憶が混在する場所だと思うんです。話を単純化してしまい申し訳ありませんが、佐渡が流刑地だったという歴史はよく知られていますよね?そこに流されていったいわゆる「罪人」の土地としての記憶があったり、一方でそこから派生した400年以上続く能の文化の記憶もある。そんな佐渡の歴史を知り、『すばらしい新世界』(オルダス・ハクスリー著のSF小説)を連想したんです。
近未来を舞台にした同書にも、社会から隔絶された流刑地となっている島があり、そこには犯罪を犯した人たちだけでなく、時の為政者と対立した政治思想を持つ政治家や文化人なども流されてきて、そこに非常に活発な思想的風土や刺激的な文化が形作られていく様子が描かれているんです。
佐渡にも、流されてきた世阿弥が伝えた能文化が数百年も根付いていますが、島という物理的に隔離された場所だと、そんな刺激的な文化を何百年にも渡り保管する、保存装置のような機能があると思うんです。そんな観点も交えつつ長谷川さんと話しながら作品のコンセプトや「函数の部屋」というタイトルを作り上げていきました。

長谷川:コンセプトがある程度固まってから、まずは山井くんが7枚の絵を描いてそれに対応した7個のボックスを作った。7つある人間の頸椎にリンクさせているんですけど、私はその両端に位置する頭と尾にあたる部分の映像を作り、一つの作品として仕上げていきました。

@Yusuke Moriya
@Yusuke Moriya

―お二人とも以前から佐渡にはゆかりがあったようですが、じっくり腰を据えて作品を制作してみて、何か印象は変わりましたか?

山井:僕は新潟県の三条市出身ということもあり、それこそ小さい頃は何度も観光地のようなところには行っていたのですが、今回の制作も含めここ数年、地元の人しか知らないような場所やちょっとダークな土地だったりにも行くようになって、文化的にだけでなく、地形的にも非常に独特な場所だなと思うようになり、かなりインスピレーションを受けましたね。今回の作品のトーンだったり最終的なアウトプットにもかなり影響があったと思う。
佐渡の人と深く関わるのは今回が初めてだったのですが、自分の島に誇りを持っている方が多くて、それがわかるくらいに独特な風土がありますよね。

長谷川:私は相川という地区で<喜助>というお菓子屋さんをやっている友だちがいて、2018年に2週間くらい滞在したのが初めてで、今回は四回目の滞在でした。作品では音声だけ使っているんですけど、漁師さんが海をどう感じているのかに興味があって、琴浦や姫津など、いろいろな港で漁師さんたちに話を聞いてまわったんです。
道端に座っているおじいちゃんに声を掛けてお話を聞いてみると捕鯨船に乗っていた方だったり、蟹工船に乗っていた人がいたりして、色々とお話を伺ったり家で写真を見せてもらったり。ささやかだけれど、歴史的なことも感じることができた気がします。
普段東京に暮らしていると、どうしても人目線で周りを見てしまうけれど、佐渡だと圧倒的に自然の方が多いから、完全に感覚が変わりますよね。どっちが正しいとはわからないけれど、記憶喪失的に忘れていた現代社会とは全然違う価値観が、知識的にではなく細胞レベルで感じることができたと思います。鳥の声とかも違う感じがするし、自分の体もそんな自然の一部なんだなと実感できた。
映像の中にも出てきますが、星がもう言葉にならないくらい綺麗で、例えばお風呂に向かう10分間の間にいくつも流れ星を観ることができたりして、宇宙では本当に色々なことが起きているんだな、繋がっているんだなと思ったり。

山井:確かに、佐渡に滞在するまでは心のどこかで都市優位的な考えもあったんですけど、ずっと都市にいなくてもいいなと思うようになりましたね。もちろん佐渡で自分たちだけなく他の素晴らしい作家さんたちの作品も観てもらいたいと思いますが、佐渡の独特な風土や圧倒的な自然も体感してもらえたら嬉しいです。

プロフィール

長谷川 億名(Yokna Hasegawa)
映画監督。1985年、栃木県那須塩原市生まれ。2013年、写真作品『アセンション・リバー』でキヤノン写真新世紀佳作。近未来の日本を舞台にしたSF三部作映画『イリュミナシオン』(2014)、 『DUAL CITY』(2015)を監督。近作は、飛鳥時代の伝承と葛飾北斎の春画に登場する海女を同一人物と捉えた詩を映像化した『The Pearl Diver’s Tale』(2020)、 佐渡・相川の一夏を撮影した『First Memory of the Ocean』(2021)などがある。

山井 隆介(Ryusuke Yamai)
画家。1993年、新潟県三条市生まれ。神話、科学、詩、歴史の他、生活の中で目にする現象を通して観測された 「言語の非言語状態」「非言語の言語状態」を記憶させる装置として、ドローイングやオブジェを中心に制作。

interview & text : kei sato

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